消え行くデータメディアについて


私は、クラシック音楽家の故ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮者)の音楽が好きで、CDの他に、数枚のレーザーディスクを所有しています。で、そのたった数枚のレーザーディスクを再生する為だけに、ソニー製のレーザーディスクプレイヤーを持っているのですが、普段はゆっくり映像を見る暇も無い(と言うかテレビも無い)ので、もっぱらCDプレイヤーとして使用していました。レーザーディスクとは、巨大なCDの様なもので、映像と音が両方記録されており、ビデオテープの様に劣化せず、CD並みの音質を持つ次世代の映像記録メディアとしてちょっと前まではカラオケ店等でも使用されていました。しかし、今ではコンパクトでより大容量なDVDの登場で殆ど姿を消し、開発メーカーであるパイオニアが細々と生産を続けているだけです。

私のレーザーディスクプレイヤーは、買ってからかれこれ12年ほど経過しており、そろそろそのご老体が心配な時期でした。最近、久々にカラヤンのレーザーディスクが見たくなり、テレビに繋いで再生してみることにしました。最初の内は何の問題も無く動いていたのですが、再生が終わり、ディスクを取り出そうとした瞬間、「ピキンっ!」という妙な破壊音!?が聞こえ、出て来たトレーの上には何やら見慣れないプラスチックの破片が・・・。遂に壊れたか!!その後は全く再生できなくなったのです。たった1ミリ程度の部品の為に・・・。

すぐに機械を自分で分解してみると、ディスクを持ち上げて回転させる小さな円盤状の部品がモーターから外れて転がっていました。どうやらこの部品とモーターを固定していた僅か1ミリ程度の部品(釣り針で言うカエシの様な部品)が経年劣化の為折れて吹き飛んでしまった様です。取り合えず、複雑極まりない機械の内部をくまなく捜索し、破片を全て回収しました。後日、電気店に相談してみると、メーカーから回答があり、「該当する部品は既に在庫が有りません・・・」とのこと。当然修理不可能とのこと。そこで、残された部品を使って一か八か自分で修理を試みることに。

僅か1ミリ程度の部品を慎重に摘み、おもむろにアロンアルファを充填!やぐら状に複雑に構成された機械なので手を入れるのも一苦労。他の部品を取り外したり緩めたりして、モーター軸受けにパーツを組み込んでいきます。正にミッションインポッシブル並みの緊張感で作業を完了!緊張しながら電源を投入、ディスクを入れてみると・・・。ヤッター!大成功!もしメーカーに部品が残っていても修理代に1万円以上は必要ですので、アロンアルファ代だけで修理できた喜びは大きかったです。

こうして、後数年は延命できた(つもり)我が家のレーザーディスク。しかし、次に壊れた時はもう最後でしょう(新しい機械が全く売っていない訳では無いが、今お金を出せるかと言われると・・・?です)。そして、私の大切なカラヤンのレーザーディスクは永遠に再生不能に・・・。カラヤンはクラシック音楽家の中では珍しく、レコードやビデオ等の先進技術に大きな関心を持っていたことは有名です。その時代時代に、最も優れた手法と技術を用いて録音、撮影を繰り返していたカラヤンが、晩年に自らのプロダクションを起こして、製作したオーケストラ演奏のビデオ作品がその名も「カラヤンの遺産(レガシー)」です。当時、最も先進的な映像技術であったレーザーディスクこそが、自らの作品を後世に残す最良の手段と確信して、正に遺産とするべく製作されたものなのです。

音響・映像技術の発達にに多大な貢献をしたカラヤン氏。そんな彼が自らの遺産として製作したレーザーディスクが今、存亡の危機に有る。実に皮肉な感じがします。「カラヤンの遺産(レガシー)」は、今ではDVD版も発売されている様ですが、カラヤンが存命中に、自らの遺産として世に送り出そうとしていたレーザーディスクこそが、真のカラヤンの遺産である!と勝手に解釈している私としては非常に悲しい気分です。もっとも、最新技術に多大なる関心を寄せていたカラヤン氏が生きていたなら、迷わずDVDで作品を残そうとしていたでしょうが・・・(笑)。

レーザーディスクに限らず、技術の進歩と共に、多くのデータメディア(記録媒体)が再生不可能となり、眠っていると思われます。身近なところではベータ・マックス方式のビデオもそうです。まだまだ愛好家がいるアナログレコードも、普通の家庭では既に再生できないことも多いのではないでしょうか(近年、再びブームですが)。パソコンでは3.5インチフロッピーが普及する前の大きなフロッピーディスク(5インチ!?)に入れていたデータが見られなくなった企業や個人も多いのではないでしょうか?以前、テレビで見たのですが、どこの国だか忘れましたが古い重要データ(昔の国家機密や、貴重な映像資料、科学データ等と思われる)が、かつて記録していた方式の機器が既にこの世に無く、永遠に人目に触れることなく膨大な数眠っているそうです。恐らく、規模の違いこそあれ、世界中の国々や企業でも良く似た事情を抱えていると思います。最近は、貴重なデータを後世に残す重要性が充分理解されてきているので、極めて重要な事柄は新しいメディアにしっかりと複製されていると思いますが、世の中全体を見渡すと読み取り不能になるデータと言うのは多いのだと思います。

自分のレーザーディスクプレイヤーが故障したことで、データの記録、保管と言うことにちょっと考えさせられてしまいました。今、パソコンで普通に使っているCD-RやDVD、MO、フロッピーディスク等も将来的にいつまで使うことができるのか?その時は、別のメディアに複製できるのか?今、どんなメディアに記録した方が得なのか?・・・考え出したら本当に悩んでしまいます。いくらデータメディアが残っていても再生する機械が無くなれば意味が無い!やはり、紙にペンで書いたものが一番良いのか!?皆さんはどうお考えでしょうか?

2005年1月10日  藤井稔也



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